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遊は私に何かを隠しているようだった。そしてそれは一つだけではないようだった。
時に、真夜中。遊の病室から慌ただしい音が聞こえていた。それは医者や看護士が走り回るような音で、私はこっそりその様子に耳を傾けた。
その行為は遊の秘密にさわるみたいで、すごく罪悪感を抱いたのを覚えている。結果、医者達の会話で遊がいつ死んでもおかしくない事を知ってしまったのだ。
イツシンデモオカシクナイ。
その言葉は私の心にまた黒いクレヨンをぬりたくった。
その次の日、遊は私のところへは来なかった。だけど黒いクレヨンはしつこくて、そのまた次の日に私のところに来た遊を、気付けば問い詰めていた。
「遊!遊はもう、死んじゃうの!?」
きっと私は泣きそうな顔をしていたんだろう。
「・・・・・」
遊はまた黙り込んでは、私のベットのすみに腰をかけた。腰をかけたといっても、それはすぐには終わらなくて、不便な足で踏ん張るような音がした後だ。
「遊…」
私が彼の名前を呼ぶと、淋しそうに笑う音がした。
「…ばれちゃった?」
その声は淡々としていた。なんでもない事のように、遊は私の両手をすくいあげた。
「ね、ななみ。僕の顔がどんなのか、知りたくない?」
そういっては、私の両手を彼の顔にあてた。
「さわってごらん。この手で感じとるんだ。」
「・・・・」
言われるがままに、私は遊の顔の上に指をなぞらせた。
遊の肌は少し冷たくて、でもほんの少し温かいから、きっと色が白いんだろうと思う。鼻はすっと高くて、細い。目のあたりは少しほりが深いように思う。そして、指は遊の唇を撫でた。予想通り、薄めの唇で、少しだけ乾燥している。
頭の中で遊の顔を組み立てていくと、なかなかかっこいいんじゃないかと思っていた。
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