初恋

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私はしつこくしつこく、これでもかというぐらい、遊の顔を触った。そして、閉じているだろう目の上を撫でると、突然眼球が動いたから、慌てて手を体の後ろに隠した。 「どう?」 「どうって言われても…」 私が口ごもっていると、今度は遊の両手が私の両ほほにそえられた。 そして、唇になにかが触れた。きっかり3秒経った後に、温かい空気がかかってはなにかが離れた。 「ななみ。僕は…ななみが好きだよ。」 その言葉がきっかけに、さっきはキスをされたんだという事に気付いた。私の顔が熱くなっていくのに、そう時間はかからなかった。 「僕は、まわりから見れば不幸なのかもしれない。でも僕は、ななみを好きになれたから、幸せなんだ。自分の事を幸せだと決められるんだ。」 役立たずの目から、水がこぼれた。私は泣きはじめていた。 「ねぇ…私の涙は、今、どんな色をしてる?」 「透明だよ。とても、綺麗だ。」 優しく抱きしめられた後、私は遊の服をつかんだ。目が見えていたら…と、こんなにも祈った事はなかった。遊の目が見たかった。遊の存在を感じたかった。 私は遊に恋をしたんだと思った。 別れがすぐ傍にせまっている、とても皮肉な恋だけど。
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