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遊はほとんど毎日、私のところにやってきた。そして私はなるべく、遊の顔や体を触るようにした。目が見えない分、遊の存在が遠く感じて怖かったから。
ほとんど毎日。遊がきて、私が触れて、話をして、遊が去る。たまに抱きしめあった。私は気付いていた。遊がどんどん細くなりつつある事。そしてそれが遊との別れが近いのを意味している事。
「ねぇ、遊。お願いだから遠くに行かないで。」
私はある日そう言った。
「それは無理だよ。君はそれが叶わない事だと分かっているだろう?」
「・・・・」
「大丈夫だよ。遠くでも、近いから。」
「・・・?」
「いつか、分かるよ。その意味は。」
…今なら分かるよ。その意味が。だから、その後起こった出来事には後悔してる。
「遊…ごめんなさいね…」
それは遊の病室から、珍しく女の人の声が聞こえた時だった。たまたま、本当の偶然、私が遊の病室の前を通ったから、つい二人の話を聞いてしまったのだ。
「…いいんだ。もう、無理しなくて良いっていう事なんだよ」
「遊…お父さんが事故を起こしたから…」
「分かっているよ。お金がない事ぐらい…相手の目を壊したんだから、当然だろう。」
「でもまさか…相手が遊の隣の病室なんて…」
「…『まさか』ね…僕も隣に来るなんて思ってもみなかったよ」
遊の秘密に、また、触れてしまった。つまり、遊のお父さんは私の目をダメにした運転手だったって事。
「僕がなかなか良くならないから、お父さんも無理をしすぎていたのだろうね。」
「・・・・」
「僕のせいでもあるんだよ。僕にも罪があるんだよ。」
何がなんだか。黒いクレヨンどころじゃない。もうぐちゃぐちゃ。
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