初恋

6/11
前へ
/17ページ
次へ
遊はほとんど毎日、私のところにやってきた。そして私はなるべく、遊の顔や体を触るようにした。目が見えない分、遊の存在が遠く感じて怖かったから。 ほとんど毎日。遊がきて、私が触れて、話をして、遊が去る。たまに抱きしめあった。私は気付いていた。遊がどんどん細くなりつつある事。そしてそれが遊との別れが近いのを意味している事。 「ねぇ、遊。お願いだから遠くに行かないで。」 私はある日そう言った。 「それは無理だよ。君はそれが叶わない事だと分かっているだろう?」 「・・・・」 「大丈夫だよ。遠くでも、近いから。」 「・・・?」 「いつか、分かるよ。その意味は。」 …今なら分かるよ。その意味が。だから、その後起こった出来事には後悔してる。 「遊…ごめんなさいね…」 それは遊の病室から、珍しく女の人の声が聞こえた時だった。たまたま、本当の偶然、私が遊の病室の前を通ったから、つい二人の話を聞いてしまったのだ。 「…いいんだ。もう、無理しなくて良いっていう事なんだよ」 「遊…お父さんが事故を起こしたから…」 「分かっているよ。お金がない事ぐらい…相手の目を壊したんだから、当然だろう。」 「でもまさか…相手が遊の隣の病室なんて…」 「…『まさか』ね…僕も隣に来るなんて思ってもみなかったよ」 遊の秘密に、また、触れてしまった。つまり、遊のお父さんは私の目をダメにした運転手だったって事。 「僕がなかなか良くならないから、お父さんも無理をしすぎていたのだろうね。」 「・・・・」 「僕のせいでもあるんだよ。僕にも罪があるんだよ。」 何がなんだか。黒いクレヨンどころじゃない。もうぐちゃぐちゃ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加