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私にはどうする事もできず、ただその場を去った。けれど遊は私が話を聞いてしまった事に気付いていたらしく、その晩、私のもとを訪れた。
「ななみ」
「なに?」
なぜか冷たい声しかでてきてくれなかった。
「君は昼間、話を聞いてしまったね?」
「・・・・」
ゆっくりと頷くと、怒りのような、悲しみのような、何とも言えない感情が煮え上がっていた。赤い朱い紅い、ぐつぐつと。けれどどこか真っ青に冷たかった。
「僕は、五年以上病気でね。家にお金がないのに治療費はやたらと高くて。お父さんは、寝る間を惜しんで働いていたんだ。」
「・・・・」
彼の話を聞いていても、心が落ち着かなかった。
「ななみが事故にあったのは僕のせいなんだ。だから、僕も加害者なんだ。」
ちがう。聞きたいのはそんな謝罪じゃない。
「本当に、ごめんね」
「ちがうっ!!」
遊が謝った瞬間、私は大声をあげていた。
「違うっ!!私は遊に謝ってなんかほしくない!!」
「…え?」
遊自身はなにがなんだか分からないようだった。
「遊のお父さんが事故を起こしたから…だから罪悪感を感じていたの?だから私に近づいたの?」
遊は何も言えずにいて、私には、それが肯定しているように思えた。とまらなかった。猜疑心。溢れ出しては遊へとぶつかっていく。
「私を好きだと言ったのは、嘘だったんでしょう!?罪悪感からなんでしょう!?ねぇ、そうなんでしょう!?」
「違っ…」
「もう、遊の事信じられない!!信じたくない!!私が好きなら私の目をどうにかしてよ!!私の目を見えるようにしてよ!!」
そこまで言ってしまうと、後はどこからか悲しい空気が流れた。ひんやりと冷たかった。
「…もう…来ないで…」
手探りで遊を見つけては、力無く押した。遊は悲しい空気のまま、何も言わずに、部屋を出ていった。
遊が出て行った後も悲しい空気は残った。きっと、空気に色がついているなら、今はうすい青かもしれない。
どうしてあんなにきつい事を言ってしまったのかと、後悔が残った。
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