サヨナラも言わない

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「それでは、礼実さんとの最後の対面です」    進行役の人がそう言うと、たくさんの花に埋もれた礼実の頬を、彼女の親戚と思わしき人が涙を流しながら触っていく    文斗はその列の最後尾にいた。すれ違う度に、鼻をすする音が、文斗の耳をついた。    そして文斗の番だ。だが文斗は彼女の顔を凝視するだけで精一杯だ。    いや、未だに信じられないのだ。鼻や耳、口に入れられた綿が彼女を醜く見せてる気がした。   「よろしいですか?」    進行役の人が文斗に問うた。   「はい」    死後硬直が終わり、彼女の瞼が開いていく。   「礼実!!礼実ー!!」    彼女の母は狂ったようにただ彼女の名を叫んだ。
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