サヨナラも言わない

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 泣き叫ぶ彼女の母を彼女の父が抑えた。   「和帆、やめなさい」    だが、彼女の母は…、和帆は彼女の眠る柩に懸命にすがり付こうとした。    くすりと隣で笑う音がした。彼は黙ったまま、和帆を見ていた。    顔には隈ができ、以前彼がみた時より、シワが深くなっている。    呼んでも、彼女は返らない。木箱に覆われて、今どんな顔をしてるのかもわからない。    棺を乗せた台車が、火葬炉から伸びる台の横に止まった。    泣き叫び、咽せながら…。和帆は「礼実」と呟いた    みなが黙祷を始めたので、文斗もそれに倣った。    喘ぎ声が、そこに響いていた。やがて    扉を閉める音が、そこに一瞬の静寂をもたらした。
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