スーツ姿の青年

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「僕は東京の一流大学さ。……推薦では落ちたけど、まぁ普通に受験しても僕の頭じゃ受かるんだけどね。 …だからな、東京の大学に行くから、僕引っ越すんだ。東京で一人暮らしだよ。お金はママが仕送りしてくれるからいいんだけど、ここに来られるのは夏休みと冬休み、それと春休みぐらいしかないんだ…」 風間は月に一度、必ずここに来ていた。 話す内容は松坂先生はまだ結婚できないとか、まさ○君のドジ話などの他愛もない話。 しかし欠かすことなく、月に一度は絶対に仏壇の前で手を合わせ、話をしているのだった。 あの日から、ずっと。 「だから次来る時は七月位になるのかな? 今度来た時、東京で洗練された僕のカッコ良さに腰抜かすなよ?」 わかってはいるが、返事はない。 「じゃあな、しん〇すけ。お土産は買ってきてやるから心配するなよ」 風間は立ち上がり、み〇えに一礼して家を出た。 今年は春の訪れが遅い。 春一番はとっくに吹いたのだが、それから温かくなることもなく桜はつぼみを半分もつけていない。 風間はママに買ってもらったお気に入りのコートの襟をぐいと引き締め、歩き出した。
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