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鼓膜の中に反響するのは、美しい旋律を奏でるキーボードのタップ音。
やっぱり俺の居場所はここだなぁ。
そんなしみじみした感情に浸っていると、後ろの入口から誰か入ってきたようだ。
多分、上司か誰かだと思い見向きもしなかった。
俺は、今の上司が大嫌いだ。
何故なら、世間で俗にいうエリートという奴だからだ。
しかも、そいつにいたってははやたらと、学歴だとかなんとか言って、インテリを気取ってやがるわりに、仕事は、ろくに出来ないときた。
だから、誰も挨拶なんかしない。
自分の仕事をこなすので精一杯なのだ。
本当に、どうしようもない会社だよ。
そう思っていると、こちらに近付いて来た。
めんどくせぇ
そう思っていると、不意に、
「お疲れ様。」
と言われた。
「まだ仕事は終ってな・・・」
言い終わる前に、さっきと同じ調子で、
「お疲れ様。」
舐めてんのか?
と思い振り返り、俺は我が目を疑った。
そこにいたのは、先に逝ってしまった女房だった。
呆気にとられている俺をよそに、
「行きましょう。」
と言った。
「手当は貰えねぇな。」
涙目を隠しながら、俺は、言った。
思い出した。
俺は既に、死んでいた。
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