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『あのぅ……。藤堂さんですか?』
気弱な声に反応して私は教室のドアに注目した。
短髪、黒縁眼鏡、いかにも虐められてそうな態度。
それが今日、私を買ってくれるお客の一人だった。
「はい。藤堂美月です」
初めは第一印象から。
にこやかに笑って軽い自己紹介をすればたいていの男は気分を良くするはず。
『え、っと…僕は桜井……浩太って言います!』
桜井浩太と名乗る男は妙に慌てながら、滑舌の悪い口調で要望を言った。
『キ、…キスして下さい!』
赤く染まった頬で躊躇いがちに私に言った。
キス…。
「分かりました。あ、先払いですから先にお金貰いますね」
値段を告げると桜井浩太は一流ブランドの長財布から一万円札二枚を取り出して私に差し出す。
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