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――正義とは、走り続けることである!
夕月陽太(ゆうづきようた)は駆けていた。
焦燥を込めた顔には、春雨と汗が張り付いている。しかしそれを物ともせず、彼はひたすらに帰路を走った。
宵の小道には人一人いない。正義の俊足を生かす為には充分だった。
陽太は、速い。そして当たり前に、それには理由があった。
とりわけ、彼は高校で部活動へ所属していないのだが、言うところの自主訓練に励んでいるのだ。
しかし、その訓練理由は尋常なものでない。元を辿れば、九年程前になるだろうか。そう、あの時も、このような春雨が降っていて――
夕月陽太は、七歳の頃に飼い犬の死を見た。トラックに轢かれたのだ。
まだ幼い犬だったので、それの頭は踏まれたガムのようにひしゃげ、陽太の胸へ恐怖と悲壮の雷を落とした。
だがその雷撃は、ただ陽太の全身を震わせただけでなく、血を沸かせ、心を燃やし、正義に目覚めさせたのだ。
幼かりし陽太は、その時決心した。
きっと、自分の足がもっと速かったら、犬を助けられた筈だ、走る特訓をしよう――と。
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