魔贈獣の姿

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更夜が目を開けると、泥に姿を変え水に崩れ落ちた妖魔が数体見えた。 崩れ落ちていない妖魔は前にいた妖魔の影で光を直接浴びてない者だろう。 周りは先程とは打って変わって明るい。 「これがシドさんのー」 更夜は小さく呟いた。 更夜はキクから手を離した。 途端にキクは石に戻る。 シドは更夜が落とされた時、密かに後を着けていた。 彼が着いて来たのを更夜は知っていたが、妖魔は更夜に気を取られ気付かなかったのだ。 妖魔達は驚いているのか騒いではいるものの、襲ってはこなかった。 逆にそれが恐ろしく、更夜は身震いをした。 「早く返してもらおうか」 シドはそう呟き右の手の平を妖魔達に向けた。 彼の手の平には今までなかった青い石が輝いている。 きっとあれが魔力石なのだと、更夜は思った。 「てきごうしゃ、おとこ… ころしたい」 「ころす」 「おとこ」 「りゅうはうむ」 「おとこいらない」 「ころす」 「りゅうほしい」 一匹の妖魔が言うとそれに続けこのような言葉が聞こえた。 更夜もシドも眉を潜めたが、妖魔は関係ないかの様に涎を垂らした。 更夜は少しずつシドに近付いた。 シドも妖魔に手の平を向けたまま、更夜に近付いた。 「いいか?」 「えぇ」 更夜は答えて、翁雀を見た。 翁雀は頷くと突然走った。 妖魔はそれで緊張が切れたのか一斉に動き始めた。 それを合図に更夜は水を蹴った。 水飛沫と共に更夜は高く飛んだ。 「殻(かく)!」 更夜が叫ぶとブーツは堅く尖った。 そのまま更夜は襲いかかる妖魔達を一蹴した。 一方、シドも何か呪文を叫んだが、更夜にはそれを聞き取る事は出来なかった。 ただ、彼が妖魔を倒すのを横目で確認した。
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