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更夜達がその場の妖魔を倒しきる頃には、水面は赤に染まり、臭いも鉄の臭いしかしなかった。
更夜とシドは妖魔の母を見据えた。
二人の肩は上下している。
空間の湿気も混じり汗も滴った。
特に接近戦を選んだ更夜は、服が所々破れそこから血が流れていた。
シドは母親を見ながらも周りを気にしていた。
この戦い中、母親は全く加勢しなかった。
それが諦めなのか、それとも勝算があっての事なのか、彼女の表情からは全く分からなかったのだ。
「子が死んでも何も言わないのか…!」
更夜が聞くと、母親は笑った。
その表情は余りに不気味で、更夜は身を竦めた。
「貴女、勘違いしてる。
私達が何をしたかしら?この近くの村に危害を加えた?
人を食べたかしら?
あの女ー吉量に力を貸したかしら?」
女は言うとシドを見てふふ、とまた微笑んだ。
「なら何故俺達を襲った」
シドが聞けば、また母親は笑った。
「私の夫を妖魔にしたのは仙道じゃない。
…報復よ」
「ならば何故、彼女達若い世代に手を出した!?彼女は研究に関わったか!?」
「適合者さえいなければ、私も夫も苦しまなかったわ」
ーとうさま、かなしんだー
更夜は妖魔の言葉を思い出した。
彼は、一体どんな気持ちでその言葉を言ったのだろうか。
「それは逆恨みだ。
適合者に選ばれたのは彼女達の意思ではない」
「逆恨みで結構よ…
貴方が許せない。
その子なんか竜じゃない。人の皮を被った醜い獣よ!
憎い、貴方達が憎い。何故夫は苦しまなくてはならないの!
だからー」
女が言った時、後ろから恐怖を感じた。
二人が振り向くより先に、シドの腹に何かが貫通した。
「シドさん!!」
更夜が叫んだ時、女の髪が伸びた。
更夜の腹をきつく締め、更夜は息が詰まった。
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