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「はっあ…っ」
息が切れた。
シドを突いたのは別の妖魔だった。
しかしその妖魔は今まで相手にしたのとは明らかに違った。
「咲宮!」
キクが巻き付く女の髪を噛み千切った。
なんとか受け身を取り着地すると、更夜はシドを見た。
息はある。彼の指も確かに動いていた。
「お前…!!」
更夜が妖魔を睨めば、妖魔はシドの血が付いた爪を舐めた。
そしてシドは突然掴み上げられた。
更夜はぞっとして止めようと足を踏み出したが、それより先にシドは更夜に向かい投げられた。
シドを上手く受け止めると、更夜は彼の脈と顔色を確かめた。
彼の出血量は酷く、更夜はひとまず魔法で応急処置をした。
「クソ…」
更夜は呟くとシドを背に担いだ。
「まだ息子達はいる」
妖魔は始めて口を開いた。
妖魔の言葉からそるが父親であると更夜はすぐに分かった。
入口に佇む妖魔に、中心に居座る仙女ー
更夜一人では到底敵わない。
「キク、行って!」
更夜は叫んだ。
その声で翁雀が現れ、母親に向かい走った。
父親はキクに爪を伸ばしたが、キクは軽々しく避けた。キクはそのまま空間から逃げ出した。
先程は負けたがキクにとって一対一の逃亡は得意分野であった。
キクに一瞬遅れて更夜は魔力石で高く跳んだ。
キクに集中した爪を軽く弾くと、後に続き空間から抜け出そうとした。
しかし更夜はすぐ勘違いに気付いた。
更夜の背後から赤い何かが幾つか現れた。
それは更夜の腕や足に絡み付いた。
「咲宮!」
翁雀の悲鳴にも似た声が遠く頭に響いた。
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