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「もういいわ。我慢できないのでしょう?
ーでもコートは綺麗に脱がしなさい。魔界に送りつけてやるから」
母親が言うと妖魔は喉を鳴らし、更夜の服を脱がしに掛かった。
コートは釦を弾かれ後ろ向きに脱がされた。
「お前の方が美しい」
「あら、子供に比べれば当たり前よ」
母親と父親はそんな話をしていた。
更夜にもそれは聞こえていたが、それについて考える余裕がなかった。
ー更夜様!ー
ヘブの声がした。
更夜はそれで空間が消えたと悟った。
ーヘブ…ー
ー生きてる!生きてるんですね!?更夜様!!ー
ーヘブ…ー
ヘブの声が何故か、更夜の何かに焦る心を和ませた。
耳を澄せばガクの声もするかと思ったが、彼は役目を終えたのか聞こえなかった。
「ふくやぶけない…
みず、はりつく」
妖魔がそんな事を言った。
確かに更夜の服は水分を含み身体に張り付いている。
服の破れた箇所はまだ少ない。
ー更夜様、目を開けて下さいー
ヘブが言った時、何かの鳴き声がした。
低い声だった。
目を空ければワインレッドの細長い光が見えた。
シドの石はもう輝きを失っていたので周りは暗いはずだった。
それでより一層、光は美しく目立っていた。
低い鳴き声はまた響いた。
何処か怖い、だが安心する声だった。
その声で妖魔達の手は止まった。
光は真直ぐ更夜に巻き付いた。
そこで光が大きな蛇だと分かった。
頭に角と背にたてがみが見える。
キクが更夜の肩に乗った。
「呼んできましたよ、咲宮」
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