【prologue】        ー日々の日常と暗躍する影ー

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    ◆ ◆ ◆  ――――遥か頂きに掲げられ、風に揺れる十字架の紋章が刻まれた校旗。 そして、それを眺めるものがいた。  女は手を伸ばして、その眼前に縮こまっている像を己の小さな手の中に掴んでみせる。 すると、少し口元を緩ませて笑った。 「これが『大協会聖域』。 ……立派なものねぇ。そう思うでしょ?」  風に靡く金髪を左手で払いながら、振り向く。視線の先の大柄の男は頷かない。 「そうか? 昔から古びた校舎だがなぁ」  大して興味も無さそうに男は言い捨てる。女と違い、別に目新しいものではなく。今までの日常に溶け込むただの景色だと言外に語る。  それでも女は笑みを崩さない。咲き誇る笑顔はまるで新しいおもちゃを見つけた子供のようだった。 「古びた感じがいいのよ味が出て! 昔のどこかの王族の城が火薬で焼け焦げた跡ぐらい残ってないと嫌でしょ?」 「その例えは分からないが、まぁ旧(ふる)いものに味があるってのは賛同してやるかな」  ふふっと女は微笑む。 「さすがジャパニーズ。和の心よね。 ・・・・  わさびしかしら?」 「はっ? お前なに言ってんだよ。 ・・・・  わびさびなわびさび。やっぱお前戦闘どうたら学ぶ前に日本語学びな」 「ありゃそうでしたか! それはソーリー!!」  女はふざけたようにして頭を下げる。次に、長い金髪が下に垂れるとそれを一気に引き上げた。 「でもやっぱり素晴らしいわねジャパニーズ」 「あぁ、そうだな」  男はただ相づちを打つ。いくらそれが素晴らしくても当事者には大抵分からないことなので空返事ぐらいしか返せない。  女は遠い目をして、また金髪を耳にかけるようにして払う。声は少し沈んでいた。 「残念ね。こんな素晴らしいとこが消し飛ぶなんて……、」 「……そうだな」  男は変わらずに相づちを打つだけだった。 ただ少し瞳の色が陰りを見せるその程度の変化。  女はその変化を見逃しはしなかったが、特に追求もせずに愛機に手を掛けて言う。     ・・・・ 「さぁ、後片付けをしましょうか」
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