【prologue】        ー日々の日常と暗躍する影ー

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 ――現在、この世の中では魔法というものが常識の定義として成り立っていた。  【魔術】それは自然の流れのある法則を掴み取り、偶然的に起きる奇跡を、必然的に行う技術とでも言えば分かりやすいだろうか。  例えば、皆が手を合わせて祈りを捧げる偶像崇拝。これも皆が胸に掲げた十字架や、ガラス窓から差し込む光を浴びて輝く女神の像などのデバイスを使い、各々に願いを叶えようとする。  信じる想いはマナを呼び込み、十字架や女神の像などといったデバイスが出力する。そして奇跡は起きる。  そんな無意識的で、超現実的な法則を、見つけ出し生活の中に取り込んでいるのが、この世界。  また、反比例的に機械に頼る必要も少なくなり、減退する。完全になくなりはしないものの、もう技術の進展は有り得ないだろう。  それはそうだ。杖を振れば火が炊ける。願えば、傷が治る。手を触れずとも物が運べる。  そんな便利極まりない世界で、ただコストばかりが先行する機械という不器用なものが発達するはずがなかった。  マナと十字架(デバイス)さえあれば、全ては解決してしまう世界。  そんな夢の世界にも戦争はあった。  より便利なものを人は手にすれば、それを奪い合い、罵り、殺し合う。  願えば人は死に。願えば人は生きる。利便性が生んだ悲劇がこの世界には確かに生まれていた。  幸福を願われるものはいいかも知れない。でも、身内の居ないものはどうすれば……?  自分で願う他はないだろう。殺される前に殺す。自らの幸福を願うために、他人の不幸を願う。そんな皮肉な行為を繰り返す。  殺す気はなかった。  でも、仕方がなかった。自分が幸せになるためなんだから。そう言って死人を嘲笑う世界。  愚かな思考はより、哀れな感情を生み出し、哀れな感情はより醜い憎しみを生み出す。  そう、決して止まることない負の連鎖。  これは、そんな狂った裏の世界とはほとんど関係のない日常を生きる一人の学生の話。
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