【The second parts】     ―情華祭と消えゆく者達―

49/49
70人が本棚に入れています
本棚に追加
/221ページ
「おい千里! 統括はいたかッ!? ったく、実況も放送部に任せて放り出すし何考えてんだよ」 「いえまだ見てませんですわ。本当にどこいったんですの。いつもながら、麗葵さんは奔放というか、フリーダムというか……。あの人今頃、どこかで迷って途方に暮れてなければいいんですが。いや、そんなことよりも次のプログラムの予定が…………ッ!」 (…………ん? 結局あいつまだ行ったきり戻ってないのか。さっきどこぞやに走ってたのはガチで野暮用というか、私用だったんだな。よくやるよなぁあいつも)  結果的に包み隠さずに聞き取ってしまった薫は、事情を知り思わず苦笑する。  その理由は統括委員長という重務の割りには、責任がないなーという皮肉が隠ったものだったが、 (さすがに、あいつがさっき居たとは言いづらいよなぁ。確実に俺に責任転嫁されて扱(しご)かれそうだし。仕方ねぇ、とりあえず俺が探して知らせてやるかな)  ダルいにはダルかったが、自分に火の粉が降りかからないためにも、この昼前にもう一踏ん張り頑張ることを決意する。  薫としては別に知らないフリをする手もあるが、その手段を使わなかったのは椿山薫の甘さか、それとも人柄か。どちらにしても損な役回りだった。   薫が目的を果たすために、きびすを返すときにはスピーカーから聴こえる放送部の実況からは、 『さぁ、step3中盤戦に入りました。ハイレベルな戦いの中、無双無敵を続けているのは駈隆さんです。他には…………』  と聴こえた。薫はまだまだ終わる気配はしないから大丈夫だろう、と高を括り地面を蹴った。  蹴り出したグラウンドの砂が宙を舞い、薫の後ろ姿をぼやかす。  その背中は何故かとても小さく、遠くにあるように見えた。そして、砂塵が消える前に薫の背中は消え去った。
/221ページ

最初のコメントを投稿しよう!