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三浦先生の避難場所
屋上。
本来は立ち入り禁止の場所
真田先生がソッと鍵を渡してくれた。
お昼休みに職員室に訪ねて来る生徒達から逃げるため。
最近疲れたような顔をしている三浦先生に真田先生が気を使ったのだ。
「ゆっくりしといで」
真田先生はお茶目なウィンクをして、送り出した。
それからは、天気が良い日は思い立つとここへ来て空を見る。
たまには煙草をふかしたりもする。
夏休みも終わり二学期には三浦先生も生徒達のあしらいにも慣れてきて、避難する必要もなくなった。
それでもいつものように放課後、明日の準備をする前に屋上に上がって深呼吸。
フェンスに両腕をかけてグラウンドを見下ろした。
目に止まったのは、校門前に停まる薄いパープルの軽四。
見るからに若い女の子が乗りそうな車。
それに乗り込むのはうちの生徒。
「谷川か…」
誰もいなければ素顔が出る。
三浦先生は、酷く冷たい眼差しで車が走り去るのを見つめていた。
「愛だの恋だのマセたガキばっかりだ…」
吐き捨てるように言って、俯いてフェンスを一蹴り
顔を上げると思い直すようにため息をついて、遠くの景色に視線を移す。
「傷つくのはお前なのにね…」
寂しそうに呟いた。
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