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兄貴の言っていることがどうしても理解出来なくて、俺は顔を歪めながら必死に声を絞り出す。
「なに、言ってんの……? 意味、わかんないよ……」
「まだわからない。そうか。なら、よく聞け。思考を止めるなよ。その腐った脳みそで、ひたすら考えろ」
俺は兄貴の言葉に何度もコクコクと頷くと、兄貴は俺をベッドに向かって投げ出す。
俺はドサッとベッドに尻餅をつき、兄貴を見上げた。
そして、兄貴はゆっくりと話し始める。
「お前はあのとき、少なからず動揺したか? これから、俺の口から皐のことが話されるかもしれないと、不安の気持ちを覚えたのか? 今、この状況だ。俺から話される大事な話といえば、100%、皐の話だとお前ならわかるはずだ。皐が相談したんだと、わかるはずだ。お前なら。長谷川さんに言われずとも。お前、わかってたんじゃないのか。わかってて、気付かないフリをしていたんじゃないのか! 思考を止め、ただひたすら俺の言動に憤ることで皐から逃げていたんじゃないのか! 俺がお前に大事な話があると言ったとき。長谷川さんが皐のことだろうと訊いたとき。お前は一体、なにを考えていた!」
「――――違……っ!」
「なにも違わない! 逃げたんだ! お前は! 今、置かれている状況から! 皐から!」
「違う……っ」
やめて! やめて!
もう、それ以上言わないで!
嫌だ! 嫌だ!
俺がどれだけ涙を溢したところで、兄貴は止めてくれはしない。
わかってる。
一ノ瀬 薺は、そういう人。
わかってるのに、流れる。
止めどなく、ただ、泣く。
兄貴がふぅ、と息をつき、少し声を穏やかにする。
「棗。皐のことが煩わしいか? だから逃げているのか? なるほど、それなら」
兄貴はそこまでで言葉を切ると、今までとは比にならないほどに声を荒げ、怒りや憤り……そして悲しみさえも含んだように言い放つ。
「いますぐに! 皐と別れてこいっ!!」
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