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兄貴の言葉に目を見開き、そのままなんの言葉も出さずに居ると、兄貴は俺の隣に腰を下ろす。
「考えろ。よく考えろ。お前は今、誰を想い、なにをすべきなのか。お前は、なにが知りたい? なにを伝えたい? なにがしたい?」
兄貴のとても優しい声が隣で響くと、俺は戸惑いつつも、思考を巡らせた。
確かに、俺は……
兄貴が大事な話があると言ったとき、『大事な話』という響きに少なからず不安を覚えた。
でも、それはすぐに消えて……。
もう少し考えれば、皐のことだと、容易に想像はついたのに。
考えるのを、やめてしまった。
それはきっと、気付きたくなかったからだ。
長谷川さんが、『大事な話って、檜嶋さんのこと』と言ったとき。
俺にとってそれは、気付きたくない事実だったはずなのに、そのあとの兄貴の言葉に突っかかることでその言葉を流したんだ。
それは明白な逃げ。
でも……
でも……っ!
皐のことを煩わしいだなんて、1度も、微塵も思ったことはない!
それは、絶対!
今、この状況でも!
絶対の自信を持って言える!
だから……俺は……
「兄貴……。俺、皐と……」
「……別れたい?」
兄貴の言葉に、首を振り涙を散らす。
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