はじまり

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はじまり

『それ』は前触れもなくやって来た。にこりと不気味な笑顔をひっさげて歪んだ口から歪んだ言葉を放ち、歪んだままあたしを引きずり込む。そしてあたしは『それ』の策略にまんまとハマって、身動きがとれなくなるの。ああ、今更ながらあたしばかじゃん、なんて思えてくるよ。 【闇の国のアリス】 (いらっしゃい、アリス!) その日、あたしの通う学校、更に言っちゃえばあたしのクラスに転校生がやって来た。名前は『山田キョー介』と言うみたいだ。クラスの友達がカッコいいと騒ぐ中、あたしの第一印象は「変な名前」だった。『キョー介』、なんだそれ。親御さんが付けてくれたであろう名前をけなしているみたいで良い気はしないけど、とにかく変な名前だと思ってしまったのだ。(もっとも、響き的なものよりも名前の見た目が変なのだけれども…) そんな彼はあろうことかあたしの隣の席になった。(ちくしょう、あたしの荷物置場がなくなったじゃないか!)そんな隣の彼を特別意識することもなく、一日を過ごそうとしていた。そんな時ふとした瞬間にあたしは些細な変化に気付いた。いや変化じゃないな。きっとそれは元からだったのだから。 山田キョー介の瞳は常人ではあり得ない色をしていたのだ。外国人なら有り得るかもしれないけど、彼はどう見たって日本人だ。もしかしたらどこかの国の血が混ざっているのかもしれないけれど、それでも小量なはず。そんな彼が左右違う瞳の色、しかも青と緑だなんて突然変異かカラコンで無い限り有り得ない! 眉間にしわを寄せ訝しげに彼を見ていれば、その視線に気付いたらしく顔をあたしに向けてきた。名前を抜きにしたら、確かに綺麗な顔立ちだ。さっきは名前に気を取られていたけど、こりゃもてるはずだね!もっとも、山田キョー介はあたしのタイプではないので興味はないが。 「吉野さん、どうしたの?」 小声であたしの名前を呼ぶ。いや、貴方が不思議に思えてしょうがないのですよ…なんて言えるはずが無いので、とりあえずアハハと乾いた笑い声を出す。 「…?」 「アハハ、いやいや何でもないです、気にしないで下さい。」 あたしこそ、まるで変な生き物じゃないか!山田キョー介のことを考えるなんか止めよう、と心に決めて前を向く。そうすればいつのまにか黒板が白いチョークの文字で埋め尽くされていて、あたしは慌ててシャーペンを握り締めた。
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