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(あたしはこの時、気付かなかったのだ。いや、気付くはずがなかった。この隣に座る男が不可思議な存在で、これからのあたしの人生をややこしくさせる奴だなんて、誰が想像できるだろうか?
ああ、今はもう、ただひたすらにもとの世界に戻りたい。)
いつもと少し違う学校での一日が終わり、思いっきり背伸びをする。すると隣の山田キョー介があたしの肩を指でチョンチョンとつつき、にこりと笑った。
「ねえ、ちょっといいかい?」
「……はあ…。」
山田キョー介の後に続けば、屋上に出てしまった。あたしは扉の近くで立ち止まり、山田キョー介はあたしなんか構いもせずにそのまま、近くの手摺りに背中を預ける。そしてまた、にこりと笑う。
オッドアイがやけに気持ち悪い。
「山田くん、何か話があるの?」
「話、そうだね。うん。」
「何?」
山田キョー介は背中をおもいっきり手摺りに預け、空を見上げている。そして風にかき消されて酷く小さいが笑っているようだった。
正直、ここまでであたしが山田キョー介に持つ印象は『変な名前』か『変な奴』でしかない。呼ばれた瞬間漫画でありそうな告白?!なんて、内心期待もしたりしたが、この様子じゃありえないだろう。
「吉野さんてさ、僕を変だと思ってるでしょ?」
顔を空に向けたまま、少し大きめの声で聞いてきた。
「…そんなことないよ。」
そりゃ、そう言うしかないだろう。初対面で変だと言うのはかなり自分的には抵抗がある。
「いや、あるよ。だって吉野さんだけが僕に冷たい目を向けるんだもん。そうでしょ?」
「えっ…(そうだったのか?)」
「ねえ、アリス。」
瞬間、背筋がゾッとした。
山田キョー介は手摺りから離れ、人差し指をあたしに向けて笑ったのだ。あの青と緑のオッドアイを怪しく輝かせながら、アリスと名前を呼んで。
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