翼をもがれた天使の嘆き

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3日後、母が帰ってきた(来たといったほうが正しいのかもしれないが)。 「ただいま、雅人。どう?新しいお家。」 疲れ気味の母が、優しく挨拶した。 母の名前は須川香織(カオリ)。明るく奔放な父と正反対で、冷静で思慮深い母親だ。雅人の音楽に対する情熱は父親から、冷静さと思慮深さは母から受け継がれたのだろう。 「随分快適。でも、ちょっと広すぎて、掃除が大変。」 「あら、掃除までさせちゃって、ごめんなさいね。今日からは、私もいるから、心配しないで。」 雅人の言うことは間違ってなかった。 風呂は広いし、自室の雰囲気もいい。一通りの家電もそろい、不自由はなかった。しかし、やたら広い家の掃除は、義手になれていない雅人にはきついものだった。
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