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新しい腕のひんやりとした感触に、まだ慣れるはずもなかった。
義手をつけた少年…須川雅人は、父勇一に連れられて、横浜郊外の大きな家―屋敷といったほうが正しいのかもしれないが―の前に立っていた。
「ここが、新しい家だ。母さんはお前の3日後に到着する。最低限の調度品や食べ物は中に入れておいた。3日間、一人で過ごせるね?」
「…多分、大丈夫。」
勇一の呼びかけに、雅人は感情の無い声で答える。
「辛いかもしれないが、新しい手に慣れるためにも必要なことだと思ってくれ。海外の公演でも、自分で料理作ることも多かったろ?お前は手先も器用だし、大丈夫だ!」
勇一が励ます。しかし雅人には、それが空元気であることがわかっていた。どうしても明るく振舞えない自分のために、無理して元気を出していることも、わかっていた。
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