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「父さん、今月はオーストリアで一本入ってるだけだから、早ければ2週間で帰ってこれる。そしたら久しぶりに、家族3人で飯でも食いに行こう。横浜駅のすし屋があってな、一昨日食べにいったんだが、旨いんだこれが!」
勇一がさらに明るい声を出す。
「…ありがとう、父さん。じゃあ、またね。」
引っ越してきたばかりの真新しい家の真新しい鍵を受け取り、家に入ろうとする。その瞬間、勇一があることを思い出した。
「あー!!!あれ忘れてた!」
大急ぎで引越しに使った車のトランクを開け、黒いケースを出した。
「これ、持っとけ。」
勇一はそのケースを、雅人の手に乗せた。片腕で支えられる重さではなく、ギクシャクした彼の義手が慌ててそれを支える。
「父さん…どういうつもり?」
「それをどうしようと、お前の勝手だ。お前はただそれを受け取ってくれればいい。でもな雅人、父さんは、お前がいつかどんな形でも、立ち直ってくれると信じている。これは…お前へのお守りだ。」
勇一は、静かに言い残すと、車に乗り込み、そしてエンジン音を轟かせ、窓から気障に手を振り、去っていった。
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