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5歳の時、父の部屋に勝手に入り込み、中に置いてあった楽器類をいくつも好奇心で手に取った。そして適当に、それらを吹いた。
その中で一番いい音が出たのがこの銀色のテナーサックス。それを抱えて楽しげに吹いていたら音を聞きつけた父親が入ってきて、怒られるかと思ったら、
「そうかそうか、お前も楽器に興味を持つようになったか~!」
とはしゃいで、次の日から雅人のサックスレッスンが始まった。
上達はすぐだった。年齢を経る毎にその腕も熱意も倍増していき、大好きなサックスを吹き続けて、雅人は「天才」と呼ばれるまでに至った。
これを吹く瞬間が、最高だった。
他の何よりも、サックスが大好きだった。
両親も、日に日に熱意を増していく自分に危機感さえ覚えたらしいが、そんな心配は無用だった。
サックスを吹くとき、自分の身体が音楽の世界に吸い込まれていくとき、それが雅人の全てだった。
でももう、あの感覚に浸ることはできない。
たった一台の乗用車が、雅人の全てを奪い去った。
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