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「…………ん、セ……さ……」
誰かの声が頭にじんわりと響く
それは子供らしさを残した、良く通る声
自分が気絶している事に気付き、弾かれたように起き上がる
腰を地に着けたその体制から、自分は倒れていたのだとセリスは理解した
さっき自分が立ったまま気絶していたのは未だに理解出来ていない様だが
「……良かった。気がついて……良かった。あんまりにも起きないから……もう、起きないかと……」
ラルクから詰まり詰まりに出る言葉
右腕で顔を隠しているのを見るに、泣いているのだろうか
「……ラルク」
泣いてまで心配してくれている彼に、セリスは心動かされた
「心配かけてごめんなさい。もう私は大丈夫よ」
「良かった……本当に良かった」
すすり泣きのような声が辺りに響く
セリスがそっと彼の肩に手を駆けようとしたその時
彼はいきなり立ち上がった
「茶番劇も楽しんだし、早く行こうよ。あと、もう気絶しないでね」
先程とは違い掌を返したようにスムーズに喋り始める
彼の顔に液体は見えない
薄暗く視界の悪い廊下だが、それが無いのは見える、というより分かる
右袖も濡れてない
呆れと怒りと、ほんの少しの自省心
それが混ざった感情をセリスは初めて体験した
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