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ラルクがおもむろに懐に手を入れる
そのゆっくりとした一挙一動に、セリスは怯え体を震わせる
そして彼が何かを取り出しそれを差し出して来た瞬間、彼女は目を閉じた
そのまま暫く過ごすが、何も起こらない
恐る恐る目を開ければ、そこには一枚のハンカチ
「冗談、僕はちゃんと生きてるから。それよりも汗、凄いよ?」
誰のせいよ、と文句を言いつつも彼の好意を受け取る
最早まったく子供らしくない、嘘の塊のような人だとセリスは目の前の人間を認識した
そのまま一方的に険悪な雰囲気のまま、しばらくしてラルクは曲がり角を曲がった途端に立ち止まる
何があるのかとセリスも続いて曲がって見れば、そこには長い廊下に一定の適度な間隔で扉が並んでいた
廊下の奥は常闇のようで、終わりは見えない
セリスが眼をこらしても廊下の端を見る事は出来なかった
「お嬢さんの部屋はここだよ」
彼等から見て右手の一番手前、そこに位置する扉をラルクは指差していた
別にそれには変わった様子は無いが、それがまた逆に不気味
えもいわれぬ雰囲気を覚えながらも、セリスはラルクに一つ聞いてみる
それはちょっとした罪悪感から、ちょっとした自制心から出た質問
「泊めてくれるのは嬉しいけど、本当に良いの? 最初は嫌そうだったじゃない」
そう、聞くつもりだった
だが開いた口は彼の人差し指に、意思は彼の言葉に封じられた
「続きはまた、明日。今日はもう寝よう、ね?」
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