あいつ

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「さあ、入って来たまえ!」 先生の一声に皆教室の扉に注目する。 突如として辺りを包む静寂。 何とも一気に入りづらい空気になってしまった気もするが、何の事は無く扉が開いた。 一体どんな生徒が… 皆期待に胸を膨らませているが、私の脳裏には今朝の光景がにわかに蘇っていた。 まさか… そんなベタな展開が許される筈が無い。 まさかそんな… …誰だお前。 …あ、ごめん。 本来ならそれはそうだよね。 入って来たのは見知らぬ男。 ガッチリとしたスポーツマンタイプ…とでも言うのだろうか。 渡部夏彦。 そう紹介された彼は、結局マニュアル通りにしか事を運べぬ先生の茶番の後、指示された教室の後ろの席へと腰掛けた。 今まで考えもしなかったが、ほんとに空いてる席ってあるんだね。 いや、そりゃわざわざ用意したんだろうけど。 まあ、どのみち私の席とは離れてるし、特にどうと言う事は無い。 それよりも、じゃあ今朝のあいつは何だったのだろうか。 やはり他の学年の生徒だったのか… さっきはああ言ったものの、いざ出て来ないと何だかスッキリしないものである。 未だ教室がざわめく中、一人そんな事を考えているうちにホームルームは終わりを告げた。  
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