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あなたの美しかった顔は、今とても醜い。雑に包帯が巻かれ、そこから覗く双眸は綺麗だけれど、僅かに見える皮膚は赤黒くただれていた。
私はとても苦しかった。
あなたが誰かと付き合っているという事実だけで毎夜落涙しているというのに、その美貌すら失われたことが、私の心をきつく締めた。
心底からたぎる苦しみ、悲しみは、私の手に銀のナイフを握らせた。
そして私は今、あなたの眠るベッドの横に立って見下ろしている。
ああ、大好きだったよ。
蠱惑的な細くふっくらとした唇。誰もが羨む細緻に極まったその容貌。艶やかな鋼の肉体。
私は毎夜、その姿を思い浮かべて抱いているよ。そしてあなたは、耳元であやしく囁くの、私の名前を。
それすら媚薬となって、私の下腹部をじんと濡れさせる。荒々しい息。熱くたぎる想いを私は受け止め、汗に濡れたまま私たちはしばらく抱き合っているの。
その汗ごと互いに肌を舐める。背筋が軋んで、恍惚に背を沿った。
けれど、今のあなたはすべてが違ってしまったの。
すべてが醜くなった。肌は炭化した何かと血に黒くささくれて、見るのもおぞましい。
私の理想が崩れていく。
紅蓮の火に包まれ、あなたは激しい痛みに叫び、苦しみ、火に抗い、だがしかしその抗いは無駄となって彼に返ってくる。
完璧に不の文字がついたあなたを、私は、私はみたくない。
私はナイフを振り上げた。そして僅かな躊躇いのあとに、彼の心臓に突き立てた。刺さった時、手に伝わってきた感触に私は怖いと思った。
彼は眠りの時に走った激痛に醜い全身を震わせる。ミミズがのたうち回っているようだった。しかしそれも一瞬のことで、操り人形の糸を切ってしまったかのように、体が動かなくなった。
そのあいだずっと掴んでいたナイフからそぞろに手を離し、ぺたんと座り込む。酷く冷たく、汚い床だった。
だけれど、私は笑っていた。
だって、これで理想が崩れずにすんだんだもの!
私は理想の彼に「よくやってくれたね」と誉めてもらい、無邪気に笑った。
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