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男に宥められ、ようやく頭が正常に働き始めてきた。 しかし今のところ男の声に聞き覚えはない。 後ろから抱き付かれて顔は見えないが。 男は自分を知っていて、自分は男を知らない。 そこで、気付いた。 自分は記憶喪失なのだと。 「その様子だと、わからないみたいですね…。」 男の声のトーンが少し下がる。 「あ、ごめんなさ…」 「いいんですよ、アリス。」 男の抱き締める手に少し力が入る。 「貴女は悪くありません…。悪いのは…」 悪いのは、"彼"ですから。 そう、男は言った。 男は何かを知っている。 記憶について。私について。 「何か、知ってるのっ!?」 聞くと男は暫く黙り込み、やがてまた口を開いた。 「今は、言えません。ですが…」 男は続ける。 「ですが、焦らないで下さい。記憶はそのうち思い出します。」  
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