29人が本棚に入れています
本棚に追加
男に宥められ、ようやく頭が正常に働き始めてきた。
しかし今のところ男の声に聞き覚えはない。
後ろから抱き付かれて顔は見えないが。
男は自分を知っていて、自分は男を知らない。
そこで、気付いた。
自分は記憶喪失なのだと。
「その様子だと、わからないみたいですね…。」
男の声のトーンが少し下がる。
「あ、ごめんなさ…」
「いいんですよ、アリス。」
男の抱き締める手に少し力が入る。
「貴女は悪くありません…。悪いのは…」
悪いのは、"彼"ですから。
そう、男は言った。
男は何かを知っている。
記憶について。私について。
「何か、知ってるのっ!?」
聞くと男は暫く黙り込み、やがてまた口を開いた。
「今は、言えません。ですが…」
男は続ける。
「ですが、焦らないで下さい。記憶はそのうち思い出します。」
最初のコメントを投稿しよう!