夢のあと

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じゃあ、好かれているのか、といえばその自信はない。 だから、迷うんだよな。 歴史学がマルクスの唯物的史観からより多様な基準を設けるようになってきた、と語る教授の言葉を何とは無しに聞きながら、田原は思う。 どうしてだろう、と彼は思う。 大学には来たくて来た。 勉強したい授業を選んで授業も受けている。 なのに、授業を受けている自分も、道を歩いている自分も、まるで自分では無いようだった。 携帯電話が震えた。 水野美貴か、と重い携帯電話を開く。 SNSサイトからのメールに意気消沈していると、いつもより少し早く授業が終わった。 相も変わらず真っ白なノートを見て、僕の心と同じか、と思った。 そう考えてしまう自分が空しい、と思う。 外に出ると、冷たい空気が頬を切る。 そんな季節だ。 もう少しすれば、期末試験が始まる。 それが終われば、2年に進級する。 僕は、何をしてきたのだろう、と思った。 中庭にはシュプレヒコールをあげる学生はいない。 高い学費は、私立に比べれば安いから、と納得している。 学生運動にかまけていたら、単位はとれないし、ばれたら就職活動に響く。 そうして足早に今を通り抜けて行こうとする集団にも属せず、かといって、サークル活動に精を出す集団にも属せない。 今日は授業は終わりだ。 昼下がりの弱い太陽の光は寒い空気に遮られて温かくは無かった。 目をしかめた。 髪がかかる。 床屋に行かなければ、と思う。 ダウンのチャックを上げる。 手袋をつけて、留めておいた自転車の方に歩いていった。 もう一度携帯電話を開く。 短足の猫があくびをしている。 どこかで聞いたフォークソングのフレーズを呟くように歌ってみた。 同級会の後は空しい日々が続いている。 春休みは、いつ帰ろうか、と思った。
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