第二章

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 これでも努力はしているのだ。  混血である事が他人にばれないよう、非戦闘形態でも普通の人間に勝る天狼の腕力を人前で使わないよう、挑発されても戦闘形態にならないよう、最大限気を遣い努力している。  レイはその為に必要な安全装置(ストッパー)だった。  魔族と――一部ではあるが――交流が深まり混血が進むにつれ、ごく少数ではあるが、魔族の力を抑える能力を持つ人間がいる事が判って来た。  魔術師の家系に多いから、生まれつき持っている魔力の一種なんだろう。  名前も知らない狼野郎の挑発に乗って戦闘形態で大暴れし、スカウトと言う名の拉致に遭い連れて来られたギルド本部で、俺の身の自由と生活を保障する代わりに提示されたのが、魔狩人となる事と、魔族の血を暴走させない為のストッパーを常に傍に置く事だった。  もう二年も前になる。  ストッパーの能力を持っている者は少なく、更に相性があるとかで、俺のストッパーとして現れたのが、当時まだ六歳になったばかりのレイだった。  ある程度近くにいる事で、レイは暴走しがちな俺の魔族の血を抑える事ができた。  万一暴走してしまった場合にも、レイが額の宝玉に触れる事で暴走を止める事が可能だ。  俺の暴走の引き金となるのは自身の血の匂い。  要するに、原因は主に魔族から攻撃を受け負傷する事にあったから、それを防ぐにはレイとずっと行動を共にする必要がある。  ちなみに、レイの能力の有効範囲は半径約30メートル。  つまり、俺はレイと離れられないと言う事だ。  ガキのお守りなんざ冗談じゃねえと俺はそりゃあもう盛大にごねたが、他に相性の合う奴は見付からず、生きていく為に仕方なく俺はギルドの提示した条件を全て呑んだ。  魔族の混血だって、仕事しなけりゃ食ってけないからな。  魔狩人の仕事は危険が伴う分、報酬だって申し分ない。ギルドの保護も受けられるし、魔狩人としての特権も手に入れられる。  ガキのお守りも仕事のうちと思えば――なんて考えた俺が甘かった。  魔術師の家系に育った所為なのか、単に生来の資質なのか、レイは年のワリに頭が切れて口が立ち、やたらと生活力のあるしっかりしすぎる程にしっかりしたガキだった。  ろくな教育も受けた事がない混血児なんかじゃ太刀打ちできないくらいには。
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