4人が本棚に入れています
本棚に追加
そして町外れ。
俺の勘はぴしゃり当たって、人家がまばらになって来てそろそろかなと思った途端、手近な建物の陰から黒い獣のような影が飛び出して来た。
咄嗟にレイを背後に庇い、剣を抜いて身構えた俺の視線の先。道の真ん中に陣取ったのは、俺より二回りばかし大きな全身黒い毛に覆われた獣の姿。
見た目はちょっと狼に似ているが、後ろ足二本で立ってるあたり、絶対狼なんかじゃない。
ちっ、変態済みかよ。誰かに見られたらどーする。せめて使用前だったら、そのまま人目のない場所まで誘導すれば何とかなったのに。
と。
「きゃー!!」
耳が痛くなるような甲高い女の悲鳴。運悪く家から出て来た女が、巨大な獣の姿に驚いて腰を抜かす。
悲鳴に慌てて飛び出して来た男も、これまた情けない悲鳴を上げてその場に立ち竦んだ。
当然、獣と向き合って剣を構えている俺の姿も見られている。ああ、これでまた要らぬ噂が立ってこの町にも長居できなくなるじゃないか。下手すりゃ飯も食えずに出て行く羽目になる。
それだけは勘弁願いたい。これ以上レイの機嫌が悪くなったら、俺の心臓がもたねえよ。
住人を巻き込んだら飯を食いっぱぐれる事は確実だから、取り敢えず目の前の狼もどきをこの場から引き離さなねぇと。
「レイ、走れるか?」
「走るよ! でなきゃ、昼も夜も食べ損ねて今日は野宿じゃん!」
よく判っていらっしゃる。
「でも、離れすぎないよう気をつけてよね。僕とジェスとじゃコンパス違いすぎるんだから」
「わかってるよ」
狼もどきに向かって剣を構え直すと、レイは素早く俺から離れ、一番手近な家の軒先に身を潜めた。
その姿を横目に見遣り、距離を確かめた後、俺は狼もどきに向かって踏み込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!