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ギンッ、と金属同士が噛み合う音を立て、剣が弾かれる。
ぅお、あいつアイゼンヴォルフかよ。鋼の爪に鎧の剛毛、剣で歯が立つ相手じゃねえ。
咄嗟に背後に向かって飛んだ俺の鼻先を、獣臭い匂いと鋭い鋼鉄の爪が掠めた。
更に二度、三度。頭上目掛けて振り下ろされる鋼の爪を、辛うじて剣で受ける。
「ジェス!」
レイの声が飛ぶ。
判ってるって。このままじゃ町の方へ押し戻される。さっきの悲鳴で野次馬も集まりだした。住民を巻き込んだら一巻の終わりだ。
俺はもう一度剣を構え直し、狼野郎に向かって正面から突っ込んだ。
鋭い爪が俺の頭を狙って振り下ろされるその瞬間、身を沈めてその切っ先を躱し、奴の胴体目掛けて剣を薙ぐ。
ずしりと重い手応え。
しかし、殆ど肉を斬った感触はない。全身を覆う鋼のような剛毛に、剣の方が刃毀れしてやがる。ちっ、やっぱダメか。
こうなると、俺に残された手は一つしかない。
正直、あんまり使いたくはねぇけどな。
少し距離をとり、剣は油断なく奴へ向けたまま、俺は軽く息を整え意識を集中する。
眇めた視線の先で、奴がいかにも性質の悪い顔でにやりと笑うのが見えた。
ああもう、何だってこいつらはこうも好戦的なんだ。半端もんの事なんかほっぽっといてくれりゃいいのに、一族の恥だとか何とか言って、無理矢理理由を付けては襲いたがる。
気に食わないんなら、構わなきゃいいだろ。わざわざ視界に入れてくれなくて結構。こっちだって好きでこんな姿に生まれたんじゃねぇよ。
集めた意識と共に、熱い塊が心臓のあたりに集まって、どくりと一つ脈が大きく跳ねた。
全身に力が漲る。同時に視界が驚く程クリアになり、感覚が研ぎ澄まされる。
それまで見えていなかった遠くの木々の枝に茂る葉の筋一本一本までがはっきりと見え、頬を撫でるそよ風に、より鮮明な獣の臭いとよく知るものも含めた複数の人間の匂いが混じった。
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