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血の覚醒。
俺の中に流れるもう一つの血。
俺に力を与え、鋭い感覚をもたらし、戦う術を教えてくれる、血。
だがそれは、俺にとって有益な物だけをもたらす訳ではなかった。
一声大きく咆えた奴が、信じられないスピードで間合いを詰める。
速い。今までとは桁違いだ。野郎、やっぱり手加減してやがったな。
剣で防ごうとするが間に合わない。奴の爪が視界の隅をよぎり、紅い雫が飛ぶと同時に、俺は背後へ向かって勢いよく跳ね飛ばされた。
背中から地面に叩き付けられ息が止まる。
「ジェス!」
レイの声が遠い。慌てて上体を起こすと、レイが身を潜めた民家が遥か先に見えた。
おお、景気よく吹っ飛ばされたもんだ。
頬が酷く熱い。痛みに僅かに遅れて、鼻腔に錆びた鉄の匂いが届く。
やばいと思った視線の先で、奴がにやりと笑うのが見えた。この野郎、絶対ワザとだな!
「ジェス、ダメ!!」
瞬間、血が沸騰した。
「……ゥ、ガアァァァァァア!!」
覚醒した血は押さえが効きにくい。特に自分の血の匂いには。
その上、頼みのレイからは離れてしまっている。
お手上げだった。
視界が真っ赤に染まる。
「ヴオォォォォオ!!」
声は既に獣の咆哮だった。
全身がバキバキと音を立てて形を変える。
人のそれから獣の姿へ。
見る間に身体中が剛毛に覆われ、爪が鋭く伸びる。大きく裂けた口元からは人間の頭くらい簡単に噛み砕けそうな大きな牙が覗き、額には魔族の血を引く証である真紅の宝玉が浮かび上がる。
「きゃあぁぁぁぁあ!!」
周囲に響き渡る先刻より遥かに大きな悲鳴が、どこか遠くに聞こえた。
ああ、これで今夜は野宿確定だな。
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