いつもの憂鬱

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 そこへ、女中が手付かずの特大林檎のカスタードプディングを卓へ運んで来た。  魔王の瞳は煌めき、拭いた涎は再び口の端から溢れだし、崇めんばかりの表情で、それを見た女中は無表情で言った。 「四天王様が、これは魔王様の好物ですからと残しておいてくだすったんですよ」  魔王はされるがまま、ぷるんと切り分けられる大きなプディングを眺め、一番大きく切り取られたそれが目の前に置かれると、落ち着き払ったようにひとさじ大きく頬張った。  それをゆっくりと味わい、名残惜しそうに飲み下してから、魔王は本題の『勇者ども』の話に戻った。 「で、ゴーレムをどれぐらい作ればいいんだ?」  魔王のご機嫌とりにと考えた事がすんなり運び、ほっとしたようすでゼストが提案した。 「ゴーレムで軍隊を結成しては如何でしょう?」  その声にボストが頷いた。 「それはいい。巨大なゴーレムの軍隊を一つの城に200、いや300も居れば、魔物も悪魔の手も煩わせずに済みましょう」  俄に色めきたった席で、ダストは張り切った声を上げた。 「ゴーレムならば此方に痛手はない! 私の城にも300体は欲しいものです! 」  ガストも頷いた。 「其だけいれば心強い!勇者なんて屁でも御座いません!城以外にも人界からのルートにも500体置いてはいかがですか!?」  ゼストは仮面の中で微笑みながら魔王を見やった。  口のまわりじゅうカスタードプディングの破片を飛ばし、皿の上に大きな山となっていたそれは跡形もなくなっていた。  やや間の抜けた、でも眉を八の字にした魔王はみんなが静まり帰った後、静かに言った。 「魔界にゴーレムを何千体も……? 一体何それ、恐い」  立ち上がり、熱弁を振るっていた皆が、静かに席についた。
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