いつもの憂鬱

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「とっくに蜂の巣ですけど!?」  やや苛立った声を出したダストの顔を見て、魔王は重い腰(文字通り彼にとっては纏っている甲冑は重い)を上げた。  颯爽と立ち上がると肩から下がるマントを翻し食堂を出る。  四天王の面々も無言でそれに続き、暗い廊下を暫く歩いて、地下へ続く階段を降りた。  城の地下は城の面積とほぼ同じくらいの広さを持ち、それでいて研究の道具や材料で犇めき何倍も狭く感じる程の圧迫感がある。  階段を降りた正面の壁には大きな魔界の『不思議の地図』が貼り付けられ、魔界の異変が直ぐに現れるようチェスの駒が底を、地図、もとい壁に垂直になるようにくっついていた。  広くとられた場所には魔法陣が何度と無く描かれ、消されたであろう跡が残っていた。 「ふんふんふん、ぷりり」  魔王は甲冑を脱ぎ、ふざけた鼻歌を歌いながら、角にある粘土の壷から大きく塊を取り出すと横にある机で粘土をこね始めた。  机の上に並んでいる瓶のなかから、榴石の粉末の大瓶を開けると其れを少し掛けて、またこねる。  四天王の見守る中、暫くこねていたが軈て鼻歌が止まり、汗をボタボタと流し始めた。  魔王は四天王の方を振り向いた。 「今日はこれで終わりじゃだめなの?」  再び例のヘタレ顔である。 「どうぞ、お続け下さい魔王様」  怒りに震え握り拳を握ったガストを制止して、ゼストが穏やかに言った。  魔王は渋々、でも魔王の威厳という物を思い出したかのように続けた。  酒瓶に入ったドラゴンの血を一滴垂らし、更に練り込む。 「ふんふんふん」  どうやら成型に入ったらしく、魔王はまた鼻歌を歌い、こんどはそれに合わせてぴこぴこ尻を振り始めた。  魔王は成型に手間取りはしなかった。 魔王は絶対に解らない、剥がさなければ解らない所に「emeth」の文字を己が爪で彫り、顎にあたる部分にダミーの文字を彫り込んで、最後に頭の飾りを付け盾と剣を持たせた。 「色はつけた方がいいかな」  キラキラした笑顔で振り返った魔王の手元には、特徴的な、現代に置いてはごく近代的な――ゴーレムが立っていた。 「何それ、機動戦士じゃん」  四天王の声が揃ったのは、此れが最初で最後であった。  しかし、一体ではなかった。もう一体、横に立っていたのは見るからにそれと解る『あれ』であった。 「キ○肉マン……キン消しのでっかいのに見えるよ」  魔王は満ち足りた、達成感満々の笑顔を浮かべた。
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