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朝の桜田門、そのお膝元にあるのは東京の守りの要警視庁。
庁内6階の廊下で掲示板を見てため息をついた女がいた。
「捜査一課か・・・、いい加減諦め時かしら。」
女にため息をつかせたのは1枚の辞令。それは女に捜査一課管理官の肩書きを背負わせることを記していた。
「失礼します」
ノックをし、入った部屋の奥には刑事部長が座っていた。
「本日付で捜査一課配属になりました、長月美冬です。」
「今回も希望部署に配属されなくて残念だったな。」
敬礼する美冬に刑事部長が皮肉を言う。
「確かに希望は通るとは思っていませんでいたが、私はてっきり鑑識課に戻るのかと思っておりましたわ。」
「君はキャリア組だ。本来ならばとっくに管理職に就いていなければならない。いつまでも現場にしがみついているのは君の我侭だということを、そろそろ自覚すべきじゃないかね。」
「管理官の辞令を頂きましたから、以前ほどは現場には出られないのは分かっております。しかし、警察大学校で検視を学んできましたので、臨場には立ち合わせていただきます。」
「とにかく、管理職としての自覚をもって任務に当たれ。いいな!」
「はい。」
渋い顔の刑事部長に、頭を下げた美冬のアルカイックスマイルは刑事部長からは見えなかった。
刑事部長室を出ようとした美冬は、あ、と思い出し振り返った。
「異動したてで大変恐縮ですが、月末に午後半日だけ休暇を・・・。届けは今日中に出します。事件が起こらない前提のことですが。」
刑事部長も休暇の意味を知っているようで、渋い表情を解いた。
「あれから何年になる?」
「今年で3回忌です。では失礼します。」
と、声のトーンを少し下げて言った美冬は少し悲しげな表情で刑事部長室を後にした。
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