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ぼんやりと、ただその場に座り込んだ私に、ゆっくりとヒルクは近付き、視線を同じにするように私の目の前で屈む。
『無茶しすぎ…つうか怖かったな。頑張りマシタ。』
ヒルクは、鮮血のついてない反対の左手を、私の頭の上で数回跳ねさせ、笑みを浮かべ、左手を私の頬についた鮮血に移し親指で拭った。
私は、ヒルクの笑顔に途端に力が抜け、今更になって恐怖心が蘇り、その恐怖心は安心から涙へと形を変え私の頬を流れた。
『………っ…く』
『って泣くか、俺が泣かしたみてえだし、しょーがねえな』
ヒルクは、困ったように眉を下げながら、左腕を私の頭の後ろに回すと、力を入れ、私の顔を自分の胸に押しやり髪を撫で始める。
『特別サービスつうことで代価は要らねえから思う存分泣け。』
『…ありがとう…』
撫でる手が心地よくて耳に届く。
ヒルクの心音や体温が妙に安心を生み、私はヒルクの腕にしがみつくよう手を伸ばすと、ただ溢れる涙にその身を預けた。
ヒルクは、ずっとその間"よくやった、大丈夫゙を繰り返し呪文のように囁いていた。
悪魔は本当に悪ですか?
人間は本当に善ですか?
神様、エルダ様…マザー、私には分かりません。
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