第1話

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突如として現れた男。彼の姿は椅子に腰掛ける男と同じようにスーツ姿だった。 「あぁ、蜥蜴か。有り難いが様子見はいらないよ。すでに監視者はつけてある。」 男は目の前の画面に映っている文字を見ながら様子見は不必要であると素っ気なく答えた。 「……監視者はすでに配置していると?まさか…ウルフ…ですか?」 蜥蜴と呼ばれた男は室内に掲げられている狼の紋章を見遣り、椅子に座る男のいう監視者であろう存在の名を口にする。 蜥蜴の言葉を耳にした男はくっと声を漏らしながら笑みを浮かべ、後方に掲げられている紋章を見遣ると、静かに口を開いた。 「まさか……『狼』に動いて貰う理由なんかないよ。今回は『鮫』に任せてある。」 今度はクスリと笑みを浮かべると、蜥蜴を見遣る。対する蜥蜴も誰が監視者に付いたのかを確認出来たのか短く息を吐き、顔を天井に向ける。 逡巡するかのように半秒ほど瞼を閉じ、スッと眼を開くと視線を正面の男に動かす。 「シャーク…ですか。ヤツでは少々不安が残りますが…大丈夫なのですか、マンティス様。」 蜥蜴の正面に陣取る男、マンティスは彼の言葉に聞いて満足そうに視線をコンピュータの画面に移す。どうやら彼には蜥蜴では理解に及ばない考えがあるのだろう。 「大丈夫。鮫…シャークは上手くやってくれるよ。それよりリザード…例の件…どうなっている?」 机の上に山積みにされている書類の中から一枚取り出すと、マンティスは溜め息混じりに言葉を漏らした。先ほどまでの余裕ある表情とは打って変わり、まるで苦虫を噛み潰したような顔をしている。 一方の蜥蜴(リザード)も耳にするのも億劫といった表情に変わり、長息を吐いた。どうやら『例の件』とやらが上手く行っていないのだろう。 「目撃者は一名。未だ抹消為らず。しかも写真も撮影されたらしく……『表側』に公表されるのも時間の問題かと…」 目撃者の抹消も為らず写真を撮影された。改めて聞きたくなかった。と言いたげにマンティスは表情を曇らせた。 『組織』の存在を社会の闇に溶け込ませる為には些細な事でも敏感にならなくてはならない。目撃者の抹消など当然であり、写真を撮られるなど言語道断である。 「はぁ……仕方ない。虎が帰還次第、目撃者と写真を抹消。『熊』にも伝えておいてくれ。」 苦い表情で重たく溜め息を吐きながらマンティスはリザードにそう伝える。
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