プロローグ

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街の住宅街から少し離れた場所、木々が並び、まるで林に囲まれるようにそのアパートは佇んでいる。 長閑というよりは人の気配すら感じられない静かな空気を破壊するかのように轟く轟音。 音から察するに普通自動二輪車だろう。男はアパートの階段を上りながら、音の聞こえてきた方角を見遣る。 普通自動二輪車特有のマフラー音を吐き散らしながら単車はアパートの前を軽快に走っていった。 フロントのカウルがまるで天を貫くかのように高く聳え、シートは三人乗りなのではないかと勘違いしてしまうほどに高く長い仕様になっていた。 所謂ロケットカウルに三段シートである。 (へぇ…それほど田舎でもないのに…この街にもあんな気合いの入ったヤツがいるんだな。) 男はそんなことをぼんやりと考えながら、夕刻の陽光に染まる大家不在のアパートの自室へと消えていった。 今日はいつになく風に乗れている。通常の単車とは掛け離れた改造を施されていた仕様のバイクにうっとりするように若者はアクセルをさらに開けて速度を上げる。 風とひとつになる。彼はそこに楽しみを感じるが故に今日もバイクを走らせているのだ。 と、 「おわッッ!?」 若者は声を荒げてバイクのブレーキを踏み込んだ。そうしなければならない理由がそこにはあったからだ。 閑静な住宅街。長閑を通り越したこの区画はまさに林道で人通りも少なく、生活している人も少ない。故に彼はここでツーリングを楽しんでいるのだ。そんな静かな区画にあって似つかわしくないドイツ製の高級車。 (メルセデスかよ……あっぶねぇ…危うくぶつかるところだったぜ。) この手の若者はこういった海外製の高級車には細心の注意を払っている。暴走の末に高級車にぶつかっては弁償も馬鹿にならないし万が一…ということもある。 とにかく、衝突しなくて良かったと安堵の息を漏らした時だった。 高級車の後部席ドアが静かに開き、中から蒼いスーツを纏う女性が出てきたのだ。歳は20代後半だろうか、若者よりは確実に年上である。 「バイクの技術はまずまず。若さも充分。だが……」 開口一番、彼女は若者を見遣りなにか品定めをするかのように呟いている。バイクのライトに照らされる姿、それは捉えようによっては異常とも取れる姿だった。
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