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顔や頭から血を流し、右腕は折れているのだろう、本来曲がってはいけないほうに曲がっている。
「どうしたんだ!?…お前夕方にここら辺を単車で走ってたヤツだろ!?横転したのか!?」
今にも倒れそうなこの若者は間違いなく夕方に爆走していた男性だろう。彼は頷きながら若者に近付き肩を貸そうと手を差し延べる。が、
「うっうわぁぁッッ来るなッッ来るな…バケモノめ!!?」
若者は錯乱しているのか差し出された男の手を折れた右腕を使って必死に叩こうとしている。一体なにがどうなってこうなったのか、彼は理解が出来なかった。
単車で横転しただけでここまで錯乱状態に陥るモノなのか。それに、この男性がいうバケモノとはなんなのか。
暴れる若者を宥めるために優しく声を掛けようとした時だった。
「ひっ…鳥…鳥の怪人…バケモノ…ひぃやぁぁッッ」
外灯のほうを見遣りながら若者は吐血しながら叫んだ。
鳥の怪人・バケモノ。彼が口にした言葉に違和感を感じた男は振り返り外灯を見遣る。そこには一羽の鳩が。夜に鳩とは珍しい。夜でも明るい都会ならば鳥が飛んでいることもあるが、こんな場所で鳩とは…
だが、この鳩に怯えているのならば明らかに不自然だ。と男は若者を見遣る。と、どうしたことか、先ほどまで近くにいた若者の姿が何処にもない。あれほどの出血と傷である。歩くのも億劫だろうし何より血の跡が残るはずなのだが…
妙な違和感を覚えた男は再び振り返り外灯を見遣る。するとどうだろうか、今度は鳩も姿を消していたのだ。静かな場所である。羽ばたく音くらいなら感じ取れるはずなのだが何故かまったく感じ取れなかった。
「な…なにがどうなってるんだ?」
男は声を漏らし警戒するように周囲を見遣った。よくわからないが、なにかが起こっていることは理解できる。警戒しなくては。と思い浮かべた時だった。
「ひぎゃぁぁぁぁぁッッ」
林のほうから先ほどまの男性のものと思われる叫び声が響いてきた。
なにが起こっているのだろうか…
男は身体が震えているのを自覚した。このアパートで生活するようになって数年、こんなことはただの一度もなかった。
不吉な予感などというような簡単な感情では語り尽くせない得も知れぬ恐怖…
行くべきか行かざるべきか…
男は無意識のうちに唾を飲み込みながらも一歩また一歩と足を動かし、叫び声の聞こえてきた場所を目指す。
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