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彼は考えた。何故自分がこのような状況に立たされているのかを。
とまれ答えなぞ簡単に導き出されるのだが。
要はあの鳥怪人に気絶させられ誘拐されたのだ。朦朧としていた意識がはっきりとし始めていた彼は改めて首の動く範囲内で周囲を見渡す。
なんらかのデータを計測するのであろうか、ボタンが沢山ついた計測器やコンピュータ類。生体実験でも行うのかモルモットらしき生き物と電動メス。さらには電動ドリルまである。
ただ事ではない。それは意識を取り戻した時から思っていたが、男は改めて認識していた。
と、
コンクリート製の床を踏むブーツの独特の音が響き、暗い空間に強烈な光りが侵入してくる。この部屋の扉が開かれたのだろう。厚い扉のようにも見えるが防音性は低いのか、靴音の主が室内に入ってくるよりも近づいてきているのが理解できた。明かりにも眼が慣れた時、視界には一人の男性が扉付近に立っていた。
冷たく重々しい声で彼は呟く。
「キミが…『伊吹 雅人』か。」
と。
部屋に入ってきた男は、台の上で縛り付けられている男、『伊吹 雅人』を見るや何かに納得するように頷く。
全身を深い緑で染められた単調な装飾の繋ぎ服を纏い、背中に鋭利な鎌のような剣を二本背負っている。
その男の外見の特徴はそんなものだった。男、雅人は目の前に出現したこの男によって感じていた疑問や不安、怒りなどの感情を一気に爆発させた。
「おい!誰なんだアンタ!!なんで俺をこんなところに連れてきたんだ!!いったい…なにが目的なんだ!?」
鉄製の拘束具で身体の自由を奪われている以上、情けないが雅人に出来るのはこれくらいだった。
「身体の自由を奪われているというのに、面白い男だ…。コイツなら上手くいくかもしれん。準備を始めろ…」
喚く雅人を余所に繋ぎ服の男が準備を始めるように命じた刹那、雅人と彼以外に誰も居なかった室内に、いつのまにか白い装束に身を包んだ数名の男たちが現れた。
まるで空気に溶け込んでいるかのように無言のまま、彼等は手に持っていた電気メスなどの道具の電源を入れる…
「保険は掛けておけよ…失敗すれば、俺たちが『あの方』に消されるからな。」
繋ぎ服の男は白い装束の男たちに一言だけ命じると、雅人を一瞥し、何かに納得するように独り頷き、その部屋を静かに出て行く…
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