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室内に残された白装束の男たちは、去って行く上司らしき男に敬礼をすると、改めて台に拘束されている雅人を見遣る。
「キミのことは調べさせてもらったよ。伊吹くん。」
白装束に身を包む男は雅人を見遣り呟く。名前を知っている以上なんらかの情報は得ているモノだと雅人自身予測していたが調べられているとは思わなかった。
「…身寄りなく、ただ漠然と働く日々。だが…夢はある。父の果たせなかった夢・バイクのオートレーサーとなり世界一の選手になること。」
淡々とだが、白装束の男は雅人の生活状況や目標などを口にした。調べているという言葉に嘘偽りはないと証明するかのように男の言葉は続く。
「…現在は知人のバイクショップなどに顔を出す程度だがいつかは選手として大会に出たいと思っている。が…バイクを買う余裕はない。といったところか…」
「なにが可笑しい!?夢を追い掛けてなにがおかしいんだ!!」
頭巾で顔まで覆われている男だが声を聴けば笑っているのがすぐに理解る。雅人にはそれが我慢ならず声を荒げていた。
その叫びを聴いたからか男は憚ることなく笑い声を漏らす。
「済まない…だが安心したまえ。キミの『夢』半分は我々が叶えてやろう。最高の『マシン』と共にな…」
我慢することなく声を上げて笑いながら白装束の男は、手元に置かれていた小さなケースから一本の注射器を取り出した。
注射器の中には黄色…いや黄緑色だろうか?とにかくそんな色の見るからに怪しい液体が入っている。
「夢が叶う…?いや…それよりも……なんなんだソレは!?おい!?やめろ…やめてくれ!!」
必死に叫ぶ雅人をよそに、その注射器の針を頭巾の男はさも当然のように雅人の右腕の血管に手慣れた手つきで刺し、躊躇うことなく液体の総てを血管のなかに注入してしまった…
液体が総て注入されてしまった時、すでにそれは始まっていた…
―身体の奥が熱い…!!―
身体の中身を総てかき回されているかのごとき衝撃と激痛、気が狂いそうになるほどのソレは、容赦なく雅人を襲い続けた。
「うぅ…ッ!!うぅ…うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
ガクガクと揺れる身体…飛んで行く意識の向こう側から聴こえてくる電動メスの機械音…
それは、『伊吹 雅人』という青年が聴いた、最後の音であった…
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