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布団に頭から潜って、空気も通らない暗闇を進んでいく。
昔、母が寝る前に話してくれた。
布団のトンネルの先には、知らない世界が待っているのよと。
その言葉を信じて、何度もトンネルを抜けようとして、その都度頭を壁にぶつけて痛い思いをした事をよく覚えている。
もう、十年も前の小さな思い出の欠片を、なぞるように進んでいく。
頭に壁の感覚は来ないまま、布団が全身を覆う。使い慣れた布団の感触が首筋を伝う。
不思議に思いながら四つん這いの前進を続けると、視線の遙か彼方に見える白い点。せめぎ合う好奇心と恐怖心。
小さな闘いはあっさり好奇心が勝利を収め、光へと前進を続け、そして。
「っ!」
眩しさで何も見えなかった。ただ、外に出た事だけは分かった。分かった瞬間、恐怖心が急に息を吹き返した。
目を閉じたまま後退りしようとして、すぐに何かにぶつかった。何かは問題ではない。ぶつかったことが問題だ。
もう、
戻れないと。
この時、
理解した。
覚悟を決めて開いた視界の先は、どうしようもない位幻想的で悲しい世界。
水面に映える私の姿が、波紋に歪む。
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