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『古…の甘言に、載せられて…ならない。
其は…め
其は禁忌
其は咎…』
途切れ途切れの碑文に記された象形文字。独学で覚えた言葉の羅列はどれも恐ろしく古く、そして表現が曖昧で比喩的だ。
時折飛び出る意味の掴めない象形文字を飛ばして読んでも、もう大体の意味を掴めるようになってきた。
どうやらこの碑文はかつて、この街を襲った災厄についての戒めを唱えたものらしい。
しかし、象形文字には続きがあり、読めない箇所があり、そして他にも碑文はある。
その全てを読み解きたい。
溢れる知的好奇心を抑えることなどできやしない。
誰にも。私にも。
溢れる知性は、過ぎたる知性は、こうして牙をむき始めた。
好奇心は罪ではない。ただ使う人間が誤っているだけで。
いつの時代も。
いつになっても。
『天空古都 リア・フェイス』
象形文字を用いていた時代で『飛翔する楽園』との意味があることを、この天空都市の住人で知る者は私以外いないだろう。
天空の神々に愛され、天に近い場所での生活を許された我々にとって、象形文字とは卑しき地上の言葉として、不浄のものとして忌み嫌われていた。
私の父も、母も、近所の人間も誰一人象形文字を読み解くことをせず、まるでそれが存在しないかの如く振る舞っていた。
空の上で雲を睥睨しながら、私は遥か眼下に望む大地に思いをはせたものだ。
この天空都市を、古代の民は如何なる思いで創ったのか。その全てを知りたくなった。
私が碑文の存在を知ったのは、初等部の遠足のときだ。
町はずれにある森の中で、それはまるで忘れられた看板の如く、何の用を足さないまま鎮座していた。
正六面体にはびっしりと幾何学模様――それが文字であると、そのころは分からなかったのだ――が刻まれ、古のものであることは明白だった。
しかし長い間保護されることなく無造作に置いてあったそれは誰からも慈しまれることなく、むしろ無言の蔑みを一手に受けて朽ちていた。
誰にも注目されず、存在だけしている碑文。だが、言いようのないメッセージを私は感じた。
まるで機械のスイッチを入れたかのように。
その頃から私は一人象形文字の研究を始めた。
そして苦節二十年。変人と蔑まれ、或いは方向性の誤った天才と罵られつつも、私はどうにかここまで来た。
象形文字は、もうほとんど私の手中にある。
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