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祭太鼓に赤提灯。石畳と赤い鳥居。
ずらりと並ぶ露店の列は、どこも負けじと声を張る。
寄せては返す人の波。温もりと同時に伝わるのは、離れたくないとの意思表示。
何も言えずに握り返し、黒い波をひたすら進む。
黒くくすんだ朱い鳥居。露店の列の終着点。
参道に続く石段に、二人並んで腰掛ける。
祭太鼓の残響と、赤提灯の大絨毯。道行く人のはしゃぐ声も、露店の主のだみ声も、此処では全て別世界。
ありがとう、と君は言う。僕は何も言い返せずに、彼方に浮かぶ月を見た。
真ん丸大きな一つ目は、潤んだ光を投げかける。
慈愛に満ちた光を浴びて、ほんの少しだけ目を瞑る。
再び目を見開くと、見えるのは君の顔。
精一杯の笑い顔。
僕はとても不安だった。
隣に座るこの僕にさえ、君は泣いて見せた事がない。
辛くとも悲しくとも、君はそれを表さない。
残る未練は、だけど癒やす術を持たず。
そして訪れる最期の時。
祭太鼓の大団円に、夜空を翔る光一筋。
闇と溶け合う自分の体と、歪んでいく君の笑顔。
いつかまた、君が笑ってくれたなら。願うことは、ただそれだけ。
消え行く間際に君に幸あれと願いながら。
大空と大地に光る華を描くのを見ながら。
僕は
僕の存在は
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