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「パン買ってきて」 「はい」 「帰るわよ」 「うん」  彼女と僕は主人と下僕の関係に近い。  言うまでもなく、僕が下僕の側だ。彼女の命令には素直に従い、彼女がどこか行くのなら後ろをついて行く。  彼女が右と言えば右であり、黒とみなしたのなら黒である。そこに、僕の意志が介入する余地はない。  ある時、友人が尋ねてきた。  お前は不満じゃないのか、と。  確かに、付き合った当初は不満があった。当たり前だ。僕も一応男の端くれだから、女子のリードは恥ずかしく、そして悔しさもあった。  でも、知ってしまい、嵌ってしまったのだ。  逃げられない甘美な罠に。  そして一度嵌ったら最後、最早抜ける事は不可能だと知るのにそう時間はかからなかった。  即ち、僕は愚かな使い魔なのだ。  彼女の仕掛けた甘美な罠に囚われ、彼女と言う主に付き従う哀れな使い魔なのだ。  誰もいない路地裏に二人で並んで入るや否や、 「……ん」  唇を覆う柔らかな感触と、鼻孔を擽る香り。  嗚呼、何て甘いのだろうか。
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