ある日の話

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八月。春の和やかに降り注ぐ暖かな日差しと打って変わって、紫外線を大量に含んだ鋭い針のような日差しを人々に突き刺す。 キャンパスの敷地内に大量に植林されている木々が日陰を作り、学生がその下のベンチに座って楽しげに談笑している。 ああ、暑い…… はやく教室につけよ… ファンデーションを塗った額に小粒の汗を光らし、心の中でぼやいているのは早川祐未。 白地に英字がプリントされた半袖のシャツにショートパンツという爽やかな出で立ちで、今にも湯気が出そうな熱さを放っているアスファルトの上を歩く。 背中まで伸ばした明るめの茶色い頭が日光に反射して、艶やかに光っている。 上からも下からも燃えるような暑さを感じながら、一歩一歩教室にむかう。 右肩にかけている鞄の取っ手と皮膚がこすれて痛い。気持ち悪い。 ヨイショ、と持ち直してようやく教室に辿り着いた。 扉を押すと寒いほどの冷気が祐未の身体を取り巻いた。 「うわっ!超気持ちいい」 歓喜のあまり思わず声をあげてしまい、既に教室の中にいた学生にジロリと見られてしまった。 まあそこは祐未のこと。その様な視線に臆するはずもなく、さっさと空いている席に座った。
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